松久淳『愛があるから大丈夫』

愛があるから大丈夫

愛があるから大丈夫

この人は『天国の本屋』シリーズで有名だと思うんですけどこういったショートストーリーやエッセイなんかも好きです。この本の内容は今野さんと吾妻さんという2人の男性の女性にまつわるエピソードが交互に書かれてます。えーと、現実にいたら「うわあ・・」って思うんですが、妙にリアルだし淡々とした文章で書かれてて笑えました。ちなみに今野さんはこんな感じ↓(気分悪くされた方いたらほんとすみません・・)

 別れを決意した今野さんの取る行動、それはいつもだったら「電話線を抜いておく」なのだが、毎日会社で顔を合わせている相手には逆効果、そこで今野さんは「次にかかってくる電話を待つ」作戦を実行した。
 題して「キャッチホン・オペレーション」。
 金曜日の夜、今野さんが自宅に帰るのを見計らったように彼女から電話がかかってきた。
「ねえ、いまから泊まりに行っていいって言ったら怒る?」(甘ったるい声)
「怒ります」(きっぱり)
「えっ?」(驚き)
「怒りますって言ったんです」(さらにきっぱり)
「断るにしてももっと言い方ってもんがあるでしょ」(ちょっと怒ってる)
「怒るかって聞いたから怒るって答えただけです」(強気に)
「ちょっと、私あなたの何なの?」(切り札を出した気分で)
「そういうの勘弁してくださいよ」(パス1の要領)
「勘弁って馬鹿にしないでよ」(激怒)
「・・・・・」(パス2)
「言っとくけど、私ヤリマンじゃないから」(ちょっと悲しげ)
「いやぁ、僕もヤリチンのつもりはありませんけど」(おどけて)
「別れるつもりならちゃんと会っ」(途中で)
「あっ、キャッチだ。それじゃ」(ガチャン)
 受話器を置きキャッチホン・オペレーションの遂行を確認すると、今野さんが続けざまに「電話線引き抜き作戦」を実行、ただちにこれを完了した。
 すべての作戦の成功を見届けると、今野さんはアメリ海兵隊の凄腕スナイパーのような表情を浮かべて煙草に火をつけ、こう呟くのだった。
「別れ話は電話にかぎるね。強気でいけるもん」
         「別れ話は電話にかぎる」より